{109}第9章 自分の人生(3-2.気がかり)
電話嫌いの父だが、私への電話は頻繁にあった。
『いっちゃん、洗濯機が動かん!見に来てくれ!』
『どんな様子なん』と私。
『水は出るけど、回らん』
『お父さん、蓋閉めてる?全自動は蓋開けてたら動かんよ』
『動いた。ありがと』
毎度、自分の要件を言って終わり。
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北海道への旅行中のこと、携帯電話に父からの数え切れない着信履歴。
『お父さん、何? いま、私、北海道におるんやけど・・・』
『あんな、今日、掃除の時に(団地の自治会の)会長しろって言われたんや』
『私、住んでないから、出来へんって言った?』
『わし言うたけど、おばはんらがまだやってないのがうちだけ言うて聞かんのや』
『わかった。帰ってからね』
『わし、おばはんらに囲まれてあれこれ勝手に言われて、ほんまに酷い目にあったんやで』
『だから、帰ってからね』
『おまえ、どこに居るんや』
『北海道って言ったやん』
『北海道?』
『旅行中やから、帰ってからね』
『ほんなら頼むわ』
厄介ごとがある度に私に解決してもらい、自分は一刻でも早く安心したいという繰り返しだった。
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初めての二人体制で、昼間の連絡等はもう一人にお願いして、私は月1回の班長会と集会の議長、対外的な手続き等を担うことになった。
父は
『ほんまに、わしらが知らんうちに自分ら(同じ班の人)で順番変えて、うちが会長させられた』とずっと文句を言った。
自分は何一つ自治会活動に関わっていないにもかかわらず・・・。
一年間の会長仕事は、ついでに実家の用事が出来て父の様子を知るきっかけにした。
そして何より団地の人たちと友好関係を築いていた方が一人暮らしの父のことを思うと後々安心だった。