{137}最終章 おひとりさま(4-5.母 逝く)
後見人の行政書士が『デイサービスから預かって来た』と言って、アンパンマン人形とスタッフの寄せ書き2枚を渡してくれた。
その色紙を見た瞬間、堰を切ったように涙が溢れ止まらなくなった。
そこには母がデイサービスで過ごした日々を写した切り抜きが何枚も貼ってあり、裏面は温かい励ましのメッセージで埋め尽くされていた。
中央には前歯の無い口を大きく開けてニッコリ笑う母のアップ。
私は(母は幸せだったんだ。皆からこんなにも良くしてもらっていたんだ)と
心からの感謝とともに救われた気がしたのだった。
色紙はデイサービスだけでなく、特養のスタッフからも贈られていた。
私はアンパンマン人形と二枚の色紙を棺に納め、義理の叔母が持参してくれたカサブランカの花で母の顔を飾った。
その華やかさといったら・・・。
派手好きだった母もきっと満足したと思う。
行政書士にこれまでの感謝の挨拶をして別れた後、私達は火葬場へ向かった。
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宗派の違う寺の待合所では都合が悪かろうという理由のため、火葬場では読経をお願いしていた僧侶がすでに待っていた。
私が持参した花束が置かれた棺を前に読経が行われ、その後火葬された。
昼食から火葬場に戻って骨拾いを終え、叔父夫婦に送ってもらい別れた。
仏壇に骨壺を置き(ああ、終わったんだ)と思った。
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翌日は読経のお礼と初七日と戒名のお願いのため寺に行った。
戒名を考えてもらうために故人がどんな人だったかを話さなければならない。
私は紫色が好きだった母の戒名にできれば紫の文字を入れて欲しいとだけ言うつもりだった。
だが僧侶との母のエピソードトークに花が咲いて一時間近く居座ってしまった。
それは自分でも不思議なぐらい母の長所を次から次へと語っていたからだった。
そして、初七日の日に渡された戒名には紫の文字が入っていた。
寺からの帰りに父の時に世話になった仏具店に立ち寄って、父と同じ仕様の位牌を注文し、また同様に四十九日の納骨のため霊園にも連絡した。
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納骨を終え、弟・父・母が同じ墓に入ったことに
(母が弟と一緒でさぞかし喜んでいる)と思う反面、
(弟は父母に挟まれて大変だろうな)と妄想する私だった。
大叔母から預かったお金をこれですべて使い切り
私は約束を果たしたのだった。