{126}最終章 おひとりさま(2-9.父 逝く)
葬儀後、一週間の休みを取っていたこともあって、私は悲しみはから逃れるように動き回った。
寺に葬儀のお礼を持って行き、住職から戒名の意味について長話を聞く。
仏具店に寄り、私の部屋に置くにあたって新調する予定の仏壇と弟と父の位牌を注文する。
ここでも、私は拘った。
明らかに仏壇とわかる黒は嫌だったので、メープル材の家具調を選んだ。
弟の位牌は塗が剥げていたので父のものと揃いにしたかった。花入れなどの道具類は色の違いを試しては比べた。
霊園には納骨に際し、墓石に新たに戒名を彫ってもらうことを依頼。納骨の日程、供物などを相談した。
また、新仏の供養もあり納骨の日まで実家で生活した。
同時に父の遺品整理も始めた。
団地の明け渡しは『四十九日を過ぎてからで大丈夫』と言われたが直ぐに取りかかった。
ゴミの収集日に合わせて不用品を選別して出す。
物が少ないとはいえ、人が暮らしていく上で必要な物は想像以上の数あった。
何よりも大切にしていた道具は父が既にほとんどを処分していた。
生前、父に仕事への未練を完全に断ち切らせるためと、後々処分を任されることを想定して『お父さん、もう使わん道具どうするの?こんな重たい物、私一人になったらよう捨てんで』と言った。
数日後実家へ行くと、父が『いっちゃん、見てみい。全部捨てたんや!』と言って、空っぽの押入れを私に見せた。
『わしな団地の〇〇さんにパソコンで引き取ってくれるところ教えてもろて、ほんで電話してすぐに取りに来てもろたんや。お金も少しあったでぇ。ええ小遣いになったわ』とスッキリした表情で話してくれたのだった。
おかけで私には金槌、バール、巻き尺、インパクトドライバーを残し、他は小さな道具箱一つに収めてお世話になった工務店に自転車で運んだ。
未使用の入浴用の椅子もお世話になったデイサービスセンターへ自転車で持って行った。
他にもやらなければならないことに、父の保険金請求と預金解約。各種公共料金の解約など枚挙にいとまがなかった。