{82}第8章 病気(2-2.衝撃)
人生二度目の驚天動地です。
父には『昨夜、病名を伝えた』と医師は言いました。
更に『一週間後に手術をするため、今から検査を始める』と言われました。
私は質問する間もなく、そのまま車椅子で検査室に向かったのでした。
検査室に向かう途中で、私は見覚えのある姿を見ました。
それは、母でした。
私の頭は混乱していました。
たった今、癌の告知をされたうえに、この世で最も会いたくない母の姿を見たのですから当たり前です。
苦しい大腸カメラの検査を終えた私を病室で父と母が待っていました。
母は(どうしてここに連れてこられたのか分からない)といった感じで不機嫌そうに私には見えました。
「お前から、これ(母)に病気のこと説明してくれ」
と父は信じられないことを言ったのでした。
「お父さん、私、今朝先生から病名聞いたから・・・」
「お父さんは昨日の晩に聞いたんでしょ」
父は驚くと共にほっとした様子で
「お前、知ってるんか」
「うん」
父はそれでもなお
「これ(母)に説明してやってくれ」の一点張り。
(何の説明も無く母を連れて来たんか?!)
(連れて来たあんたが責任持って言ってくれ!)
と父の勝手な言い分に、私は心の底から腹が立って仕方がなかった。
(ここで押し問答をしていても埒が明かない)と思った私は、
看護師に頼んで『三人で静かに話せる場所を貸して欲しい』と頼んだのです。
『空いている個室を使っても良い』と言われ、
私達はそこで話をすることにしました。
車椅子の私の前に二人を立たせて、
「私は今さっき、大腸ガンだと言われたばかりでショックやのに、
そんな私がなんで言わなあかんの。ええ加減にして!」
「こうなったのも、あんたらのせいや!」
「あんたらのこと絶対に許さへん!」
と私は声の限り怒鳴っていました。
息も絶え絶えで半泣き状態の私を
父は「そんなこと言わんといてくれ・・・」
と言って、泣きながら抱きしめたのでした。
どこまでも不甲斐無い父でしたが、この時私は初めて抱きしめられたのでした。
そして、母も泣いていました。
これだけで私達の話は終わりました。