{32}第4章 転機 (4-2.第一の決心)
普段、何も言わない父の豹変振りに、私も母も震え上がったことをはっきり覚えています。
その頃、夜遅くに私が帰って来ると、食べっぱなしのままの食卓が待っていました。
それらを片付けることが私の役目でしたが、茶碗に付いた食べ残しのご飯は固まっていて、お湯で洗ってもなかなか綺麗にはなりませんでした。
父には気の毒ですが、疲れている私には、それ以上のことをする気力も余裕もありませんでした。
父は長年勤めていた工務店をある事情から辞めて、請負仕事を始めていました。
それは父にとって、不慣れで初めての事ばかりだったと思います。
それでも、日銭を稼がなければならない父は家族のために頑張って働いていたのでした。
しかし、父がいくら辛抱強く、真面目だからといっても生身の人間であることには変わりなく、とうとう病気になってしまいました。
父は風邪がなかなか治らず、咳に苦しんでいました。
しかも父の病気は、結核の疑いもあったため、母はうつることを嫌がって何もしないだけでなく、父に近寄ることもしませんでした。
当時の私には、父は単にお金を稼いでくれる存在でしかなかったのですが、ほっておくわけにもいかないので、通院はもとより入院から退院までのすべての世話を一人でしました。
自分で言うのも何ですが、それは手慣れたもので困ることは一切ありませんでした。
この時も、有り難いことに、程なくして父は元の健康を取り戻しました。
しかし、相変わらず夫婦喧嘩は絶え間せんでした。
母は父に、
『いつでも、あんたと別れて一人で暮らしたる』と、
事あるごとに言っていました。
このように私には、うんざりする毎日でした。
仕事も忙しく、内勤の事務員である私が若いことを理由に、外での販売を頻繁に手伝わされていました。
本当に心も体もへとへとでした。
私は、いつしか(死にたい)と考えるようになっていました。