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私がFP(ファイナンシャルプランナー)になった理由

{120}最終章 おひとりさま(2-3.父 逝く)

 昼休憩の時、携帯電話に見知らぬ人からの2件の着信履歴。
 メッセージがあったので聞くと民生委員からで
お父さんが階段から落ちて救急車で病院に運ばれました
電話に出られないので弟さんへも連絡しました。すぐに病院に向かうと言われました』

 頭の中が真っ白になった。

 何とか平静を取り戻し、折り返し民生委員に電話し詳細を聞きお礼を言った。
叔父(父の弟)にも電話し、『私もすぐに病院に向かう』と伝えた。

 父の運ばれた病院は偶然にもパート先から目と鼻の先の距離だった。

 『治療中なのでここでお待ちください』と言われた部屋で叔父の到着を待った。

 こういう場合、一人で黙って待つのではなく叔父と話していると少し不安が和らいだ。

 『出血が止まらない。何か薬を飲んでいないか?』と看護師から聞かれた。

 『不整脈血栓予防のため薬を飲んでいるが、薬品名はわかりません。
かかりつけは○○病院ですが連絡先もすぐにはわかりません』と答えた。

 それからは何もなくただただ時間だけが過ぎていった。

 ようやく担当医から知らされた内容は余りにも重過ぎて、かつ即断を迫られるものだった。

 私たちにCT画像を示しながら説明する医師の言葉は
『脳圧を下げるために開頭手術を希望するかどうか。
開頭手術には当然危険を伴う。
手術をしたからといって今よりも状態が良くなるかはわからない』
更に、
『このままだと、この一日二日が峠である』だった。

 脳の中心部が黒く写っているCT画像を見ながら私は絶望感とともに
(お父さんは最後まで私に判断を丸投げするんだ)と
心底恨めしかった。

叔父は『あんたが決めたらいい!』と言った。

意を決した瞬間、
『手術は希望しません!』
『父の生命力に任せます!』と私は答えていた。

その日は父に会えぬまま、叔父の車で送られ家に着いた。
途中、叔父と食事をした。
昼食を食べていないにもかかわらずほとんど何も喉を通らなかった。

 帰り際に看護師から渡された父の荷物を開けた途端、

異臭とともに改めて悲しみが襲ってきた

それは、
昼食に買った唐揚げと惣菜。
血だらけの衣服に下着。
下着には脱糞していた。
(買い物からの帰りで、トイレを急いでの事故だったのか)と
相変わらずせっかちな父を想うと涙が溢れてきた。

 こうして私にとって最も長い半日が終わったのだった。