{90}第8章 病気(3-5.限界)
もう一人の看護師の友達が言ったように、寝ている間に手術は終わりました。
『高野さん、わかりますか』
看護師の呼びかけに返事をした私は、硬く冷たいベッドの上で寒さの余りガタガタと震えだしました。
『寒い・・・』
毛布を何枚もかけられ体を摩ってもらいながら急いで病室に運ばれた私は、安心した表情の父や叔母、友達が『帰る』という言葉に頷くだけでした。
手術の結果は
『腹膜播種が無かっただけでなく、出血も少なく輸血の必要も無かった』
と言われました。
こうして私の手術は無事に終わり、私は生き延びることができたのです。
ほっとしたものの、それは一瞬のうちに失望に変わりました。
何故なら、
あの忌まわしいイレウス管が外されていなかったのです。
手術が終われば楽になれるという私の期待は、見事に裏切られた結果となりました。
医師の説明によれば
『術後の経過次第でまた挿管する必要があり、もしもの場合を考えて外さなかった』
と聞かされた私は、もう何も言えなかったのでした。
お蔭でその夜も苦しみは続きました。
私の喉は以前にも増して、イレウス管に過敏に反応し、唾液と痰が止まらなくなり、眠ることができませんでした。管のため何日も熟睡できないでいた私は本当に限界でした。
翌朝、術後の状態を確認するためレントゲンが撮られました。
ベッドに寝たままで行われましたが、体を少し動かすだけでも激痛が走り、
技師に『もっと優しく扱って欲しい』と訴えました。
本当に何もかも嫌で堪らなかったのです。
だから、すぐにでも起きて体を動かさなければならないところを、
私は断固拒否しました。
それは幼稚で我儘としか言いようがありませんでしたが、
私の自分ではままならない状況へのせめてもの抵抗でした。