{116}最終章 おひとりさま(1-1.再び)
術後五年が経った。
私は80%の方に入った。
この頃から、私は生かされていることだけでは満足できなくなっていた。
それは、(自分の本当にしたいことをすることであり、自分の人生を生きたい)
という思いが強くなっていたことでもあった。
私は生活をしていく上で、否応なくお金との関わりについて、子供の頃からいろいろ経験してきた。
そして、お金をどのように活かして遣うかは、人それぞれの価値観で違っていて当たり前ということも母を通して実感していた。
そのことをファイナンシャルプランナーの勉強を通して、再確認できたと言っても過言ではなかった。
私の中で一度は諦めたファイナンシャルプランナーになる夢が甦ってきていた。
一年ほど前から、新システムの導入にあたり仕事量が徐々に増えていた。
父に『二年』と言って一人暮らしを始めたが、(戻らずにいて良かった)と思っていた。
なぜなら、残業も多く帰宅が十一時近くになることも度々であったからだった。
職場では皆が疲弊し、気持にも余裕が無くなっていたが、私は自分の役割を必死で果たしていた。
いや果たしていると思っていた。
しかし、それは上司のある一言で、私の独りよがりであったことを知らしめることとなった。
(パートにでもできることを自分たちにさせてると思っているんだ)
世の中のパートで働く人に対して失礼であることは別として、私はこの言葉の意味を私の仕事が誰にでも容易にできるだけでなく、私の仕事内容が支払われている給料に見合っていないと受け取った。
(悔しかった)
私は悔しさの余り、自席に戻って涙に堪えるため俯いていたが、耐えきれず洗面所へ走ったのだった。
そこで鏡に映る自分の泣き顔に向かって、
「私にしかできないことをする。ファイナンシャルプランナーになる」
と瞬間的に宣言していた。