{70}第7章 迷い道(4-4.執行猶予)
私の予想通り、父の仕事はその後も不安定でした。
仕事が切れて焦る父を、私は市のシルバー人材センターに登録させました。
そこで、父は一日だけの植木の剪定や包丁研ぎの仕事を紹介されて行っていました。
しかし、簡単であっても大工仕事だけは絶対にしませんでした。
それは、父の職人としてまだまだ現役でやれるという誇りであったと私は思いました。
次の日から、父がシルバー人材センターに強くお願いして紹介してもらった長期間の清掃の仕事をすることになっていました。
事前の打ち合わせを終えて帰って来た父に、知り合いの大工から仕事の依頼の電話がありました。
今回も悩んだ末、父は大工の仕事を選びました。
翌朝、私は父に代わってシルバー人材センターに断りとおわびに行ったのでした。
嘘のつけない不器用な私は、担当の人に事情を話し、ただただ謝るしかありませんでした。
担当の人からは、
『父の強い要望で紹介したこと』
『勤務先に対しても無責任であること』
『自分で謝罪に来ないこと』など
かなり長い間、怒りが収まらないといった強い口調で繰り返し言われ続けた私でありました。
当然のことながら、父のシルバー人材センターでの登録は取り消されました。
こうして行き場の無くなった父は、たまにある仕事を待つしかありませんでした。
元気で気力もある父ですが、既に年齢は七十近く。
本人の自覚がないまま確実に衰えていたのでした。
ある時、現場で誤って頸椎を痛め、入院することがありました。
その後も、二階の足場から資材のうえに転落して、大怪我を負いました。
どちらも運よく命には別状ありませんでしたが、それぞれに多少の後遺症が残りました。
知り合いとはいえ、こう怪我が続いては怖くて父に仕事を頼めないのは当然のことでありました。
ついに父は大工を辞めざるを得なくなったのです。