{62}第7章 迷い道(2-2.束縛)
事情を言うため電話をしても、電話嫌いの父は出ません。
大急ぎで仕事を終えて帰ると、当然のことながら何も食べずに待っています。
空腹であり就寝時間も過ぎているので父の機嫌は最悪です。
私が『何か適当に買って食べれば良かったのに』と言っても、
『すぐに帰って来ると思っていた』と言います。
そして、
『なんでこんなに遅くなるんや』と訊くので、
『急な仕事で仕方がなかった』と答えると、
『急な仕事ってなんや、そんなんあるかい。はよ帰って来たらええんじゃ』
と一方的に言う始末。
また、夕飯の用意をしておいても、食べずに待っていることも度々ありました。
これには、私も流石に頭にきて
『先に食べといてと言ったのに、何で食べてへんの』ときつく言ったところで、
『いや、すぐに帰ってくると思って。はよ飯にしよ』といった調子。
父にとっては、私を待っていて一緒に夕飯を食べることが、私への愛情と思っていたのでしょう。
しかし、これが大間違い。
毎日、仕事帰りに夕飯と弁当の材料を買って帰宅すると、既に風呂に入り夕飯を待っている父が居る。
まさに息つく間もないといった感じで、夕飯の支度をしていた私としては、用意してある日ぐらいはさっさと一人で食べ終わっていてくれる方が、どれだけありがたいか、父には私の気持が全然わかっていませんでした。
唯一の救いは、夜八時からは自分一人の時間が待っていたことでした。
そうはいっても、夕飯の片づけと翌日の弁当のおかず作り、風呂の後は洗濯があったのですが、待っていられるプレッシャーがなく自分の都合でできる分、面倒でしたがその反面気楽でした。
こうして、仕事のストレスを家事で忘れ、家事のストレスを仕事で忘れるという悪循環の日々を送っていました。