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私がFP(ファイナンシャルプランナー)になった理由

{97}第8章 病気(4-6.復活)

 私は体の回復を素直に喜べない心情をようやく語り終えた。


 梅木先生は私の話を黙って頷きながら聞いていた。


「先生、皆は私に
『元気になって良かったね』と喜んでも、
『よくやったね』とは言ってくれませんでした」


「『頑張れ』と励ましても、
『頑張ってるね』とは言ってもらえませんでした」


「こんなにも必死で頑張っているのに、

これ以上頑張れと言われたら、

私はどうしたらいいのでしょうか」


 私は止まらない涙をハンカチで拭いながら、誰にも言えなかった辛い心の内を吐き出した。


先生は唐突に
「高野さん、本を書きなさい」
と言った。


先生のまたしても予期せぬ言葉に、私はどう答えたものかと戸惑った。


「本ですか?」


「そう」

「本を書いたらいいわ」


 私は、なぜいま本なのか正直なところ分からなかった。


 そして何も言えず、ただポカンとしていた。


 しかし、後で先生の意図することをこう理解した。

今までに起こった出来事を整理して、もう一度振り返ることだと。


私は気を取り直して、
「私はまだ死ねません」

「だって親より先に死ぬのは、何よりもの親不孝ですから・・・」
と言った。


「高野さん、まだそんなことを言うのですか」


 先生の今までにない強い口調に、私はびっくりした。


 今思えば、先生にはわかってしまったからだった。

 私が自分の人生を生きることを無意識のうちに諦めていることを・・・。


 でも肝心の私には、まだわかっていなかった。


 この頃の私は、自分が生かされたことをあらためて考えてみることがなかった。

 『治療に前向きになる』と言って帰ろうとする私に、


「よく、頑張りましたね」
と、先生が言った。


 「・・・有難うございました」
と言って、頭を下げた私の目には涙がにじんでいた。