{96}第8章 病気(4-5.復活)
一カ月半ぶりの出勤は緊張の中、同僚の驚きと安堵の表情で迎えられました。
職場の業務上、私の病名は周知の事実でしたが、皆変わり果てた姿の私にどう言葉をかけていいものかと躊躇していたことを覚えています。
私の方は、上司に挨拶をしている最中に感極まって泣き出してしまいました。
(ここまで、やっと戻ってこられた)
という安心感から出た涙でした。
どんな所でも、戻れる場所があるというのは幸せなことなのだと、私はこの時までわかっていなかったと知りました。
抗がん剤治療を決めたものの、私はやはり積極的になれないでいました。
自分は生かされているんだと感謝しつつも、
それに応えることを拒否する自分がいることが申し訳なくてならなかったのです。
私のこんな気持ちと裏腹に体は賢明に生きようとしているというのに。
(辛い)
心が体に付いていけないのです。
(苦しい)
私は、本当は死にたかったのだと思いました。
両親に『許さない』と言えたことで、もう思い残すことは何もありませんでした。
満足した私は、本当の意味で楽になりたかったのです。
なぜなら、私は再び父の【保険】としての変わらぬ現実が待っていることがわかっていたからです。