{74}第7章 迷い道(5-4.重圧の果て)
そして、先生は更に続けて言った。
「あなたは、自分がこうなったことを決して人のせいにしていない」
「こんなにも自分が辛い思いをしていることを誰かのせいにしてカウンセリングを受ける人達がほとんどなのに、あなたは誰の責任にもしないで、ただ起こった事を淡々と話しているだけでした」
「そうなんですか?」
先生の意外な言葉に、私はどう答えていいのか分からなかった。
何かのせいにするといったことを考えたところで、私には仕方の無いことだった。
敢えて言うなら、自分ではどうにもならない運命だと思っていた。
だからこそ、【子供は親を選べない】と思って生きてきた。
そうやって、自分なりに理由付けをすることで自分自身を納得させて来たのだから、『人と違う』と言われても私にはピンとこなかった。
「先生、ありがとうございました」
(全てを話し尽くす今日で終わりにしよう)と、私は決めていたのだった。
そうして自分の過去を話していく中で、私は生気を取り戻していたのだった。
「あなたの場合、もっと長い時間がかかると思っていました」
「先生、私はかつて自殺しようとした時に一度は立ち直ったんですよ。だから、慣れているんです」
(そうなんだ。私は自分を誰よりも信じている)
「専門学校の友達から、
『皆に不幸の数が同じだけあるなら、私は最初にたくさん使っているから、後は残り少ない』と言ってもらったことがありました」
「また、私が親を駄目にしたと言った同僚は、
『他人の方が肉親よりよっぽど優しい』とも言ってくれました」
何が言いたいのか自分でも分からなくなっていた。
梅木先生に、とにかく私は大丈夫だと伝えたかった。
「あなたがこんなに明るく、強くいられたのには何が支えにあったの」
またもや、先生からの予想外の質問だった。
私はにっこり笑って言った。
「漫画です」
私のこの答えに、先生はなるほどといった感じで頷いたのだった。
こうして、月一回、計四回のカウンセリングは終わった。