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私がFP(ファイナンシャルプランナー)になった理由

{73}第7章 迷い道(5-3.重圧の果て)

 今更、『自分の人生を生きていない』と言われたところで

私にはなすすべもなかった。


 それでも、私は自分で答を求めるために、梅木先生に訊いたのだった。


「以前、年長の書店時代の同僚から

私がしっかりすればするほど親を駄目にした

と言われたことがありました」


先生は頷いて、
「それは、間違っているとは言えないわね」


私は堪らずに、
「じゃあ、私はどうすれば良かったのですか!」


「死んだ弟の分まで頑張ろうと、

前を向いて生きてきたことが親を駄目にしたのなら、

私は他にどうすれば良かったのですか!」

 

「今さら、過去は変えられないじゃないですか!」


私の魂の叫びだった。

人生を全否定されたように思った私は、何でもいいから救いが欲しかった。


混乱している私に梅木先生は
「高野さん、過去は変えられるのですよ」
と言った。


「・・・」

「どういう意味ですか?」


ますます訳が分からなくなった。


「起こってしまった出来事は変わらない。

でも、あなたは今もその頃と同じ感じ方をしていますか。

もし違っているならば、起こってしまったことを変えることができたのではない?」


(ああ、そういうことか)

(自分の気持次第で、過去を違って見ることができると言っているのだな)


私なりに理解できたように思った。


「そうかもしれませんね」


と言って、私は頷いたのだった。


「でも、先生。私は絶対に母を許せません」


「ドラマの主人公のように、最期の時に母の手を取って許すといった、

良い娘になることは無理です」


と言った私は先生に(心の狭い人間)と思われても仕方がないと思った。


「高野さん、お母さんを許さなくても良い」
先生はきっぱりと言った。


私は先生に賛成してもらえたことに、正直驚いた。

そして、嬉しかった。


私はなおも先生に疑問をぶつけた。


「母は男を作って子供を捨てた訳でも、

酒に溺れて暴力を振るった訳でもありません。

それでも許さなくて良いのですか?」


「暴力は一時的に逃れられても、

浪費はずっと続いて気の休まるときがない。

そうやって逃れられない分より苦しいのよ」


(ああ、そうなんだ)

(私は母を許さなくてもいいんだ)


気持が本当に楽になった。

 

「わかりました」

絶対に母を許しません


と私は誓ったのだった。