{44}第6章 阪神淡路大震災 (1-1.無事であること)
ふっと目が覚めました。父がいつものように朝の支度をしている気配がします。
(もう少し、眠れるな)と思った瞬間、
天井が【ドドドドドド】と鳴りました。
(また、天井裏でネズミか何かが暴れているのかな)
埃が落ちて来るのが嫌で布団を頭まで被った途端、体を激しく下から何度か突き上げられた後、左右に大きく揺れ出しました。
(地震だ・・・凄い)
布団の上に何かが落ちて来るのを感じながら、私は身を固くして揺れが収まるのをひたすら待ちました。
どれぐらい経ったのか、急に静かになったので、私が様子を窺おうと布団を捲った時、
『いつこ、地震や!』
と言う父の声が聞こえたので、
私はすぐさま起き上がり
『お父さん、大丈夫!』
お互いの無事を確認した後、窓に駆け寄り、
『お母さん、大丈夫!』
と隣に居る母のことを呼んでいました。
『いっちゃん・・・』
と母の声が聞こえたので、
私は奥の部屋の窓から出て、隣の建物との隙間を壁伝いに歩きながら母の部屋の窓に向かって叫びました。
『お母さん、動けるならここから外に出よう!』
『どうやって、そっちに行ったらええん』
『いつこ、早くこっちへ来い!』
と反対側に居る父が呼ぶので、
『お父さん、お母さんが出られへん言うてる!』
『先にここから出るで!』
と父が更に叫びました。
『お母さん、すぐ助けるから待ってて!』
私は父と外に出ました。
私は直ぐに表の戸口に回り、
『お父さん、お母さん助けな!』
『おい、出してやるから、そこでじっとしとれ!』
そう母に言って、父は台所の窓を壊し始めました。
そうして窓から母を引っ張り出しました。
道路に立ち、アパートを眺めていた私の恰好は、パジャマの上に窓から引き剥がしたレースのカーテンを羽織って裸足でした。
空はまだ暗く、とても寒かったが、私は皆が無事であったことが、ただただ素直に嬉しかった。
呆然としている大家さんやアパートの他の住民の手前、興奮して喜んでいる私の様子が不謹慎だったのか、母から窘められたのでした。