{104}第9章 自分の人生(2-2.一人暮らし)
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「高野さん、普通なら当たり前に一人暮らしができるのに、
あなたは本当に時間がかかりましたね」と先生は言った。
「はい。おかげで準備期間が長かった分、一人になっても困ることは何もありませんよ」と、
私は明るく笑顔で答えた。
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私が一人暮らしをすることを決めたのは、もちろん自分の夢を叶えたかったことが一番にあった。
そしてもう一つの理由は、今後もし癌が再発した場合を考え、
(父には自立した暮らしができるようになっていてもらいたい)という思いもあった。
今さら、高齢の父親を一人にして独立することに疑問視する友人もいたが、
(これからは自分の気持に正直に生きることに罪悪感を持たない)と決めた私に迷いはなかった。
ただ、友人に理解してもらえないことが正直悲しかった。
『自分の人生を生きていなかった』と言われた私であったが、
死に直面したことでようやく行動することができたのだった。
それは、人生100年の半分近くが終わり後半戦に入る四十五歳のことであった。