{103}第9章 自分の人生(2-1.一人暮らし)
私はこれまで、母の脳梗塞、両親の離婚、阪神淡路大震災と一人暮らしをするチャンスを逃していました。
だから、今回が最後のチャンスだと思い、絶対に逃すまいと固く決心したのです。
私はすぐに行動を開始しました。
まず、叔母に会った三日後に振替休日を取って部屋探しです。
ここでもラッキーなことに、すぐにほぼ理想通りの部屋が見つかりました。
そして仮契約を済ませた私はその夜、叔母に報告と保証人を頼むために電話をしたのです。
ちょうどお盆と夏休みが重なった日に、私は念願の一人暮らしを始めました。
それは退院から二カ月経たない暑い頃でした。
叔母夫婦は引っ越しの日も手伝いに来てくれました。
電化製品やラック類は直接販売店から配達されることになっていて、自宅で使っている寝具と20型の液晶テレビを叔父の自家用車で運んでもらう以外は、すでに自転車で少しずつ身の回り品を運び終えていました。
私の新居は自宅から自転車で十分もかからない距離のところでした。
叔母は私に『自分ならもっと遠くに部屋を借りる』と言い、
『実家の近くに住むことが父に対しての私の優しさだ』とも言いました。
私は職場や病院から近い現在の生活圏をただ変えたくなかったことと、
父を説得するにあたり『近くで何かあればすぐに来られて、二、三年後には戻ってまた一緒に住む』と言っていたのでした。
だから、必要最低限の荷物を持っての引っ越しだったのです。
私の早すぎる行動に不意を衝かれた父は、不安と寂しさを自分なりにどうにか折り合いをつけようと、私の代わりに自転車で何度も往復をしては私の荷物を運んでいたのでした。
叔母は『私が一人暮らしをできるのも、父のこうした助けがあったことに感謝しなければならない』と言いました。
また、『自分が幸せでなければ父に対しても優しくできない』
と諭してもくれたのです。
私は叔母のこの言葉を忘れることなく、
(今後何があっても悔いのない生き方をしよう)
と心に決めた一人暮らしのスタートでした。