{35}第5章 被害者同盟 (1.スナック)
その夜も、9時を過ぎて帰宅した私を両親が待ち構えていました。
嫌な予感がしました。
父が不機嫌極まりないといった感じで、
『今から、これ(母)と一緒に給料を返して貰って来てくれ』と言いました。
父の余りに突然の言い様に私は、『どういうことか』と聞くと、
夕飯のおかずを作って貰っているスナックで、支払いが溜まっていることから母の給料日である今日、給料袋を差し押さえられたというのです。
私は(とうとう、ここまで来たか)と思うと同時に、
(どうして、私が行かなきゃならないの)と心の中で呟いていました。
父はなおも言い続けました。
『これ(母)が一カ月、一生懸命働いて貰ったばかりの給料。必ず払うから、今日のところは返してやってほしいと頼んで来てくれ』と。
一旦そう思い込むとどうにもならない父のこと。
私は諦めて、母を連れてスナックに向かいました。
スナックの主人に、私は、
『いくら支払ったらいいのか』
『今は持ち合わせがないが、私が明日必ず全額払うので母の給料を返してほしい』と言ったのでした。