{24}第3章 両親 (4-2.土下座)
祖父の葬儀が終わった日の夜、自宅で私と母は向き合って座っていました。
すると、おもむろに母が正座をしたかと思うと両手を着いて、
『今日はありがとうございました。これからは、お金で迷惑をかけません。』
と言って、土下座をしたのです。
母の予期せぬ言動に、私はびっくりしましたが、
(ああ、漸くわかってくれた)と思い、
とても嬉しかったです。
何度も何度も、本当に数え切れないほど繰り返し聞かされてきた母からの反省の言葉。でも、今回は初めて土下座までしている。
祖父の死が、母に浪費を止めることをこれまでになく真剣に決意させたと、心から思ったのでした。
母という人間は、人には厳しいくせに、自分に対しては『超』が付くほど甘いです。
母との約束事はいつの間にか、母にとって都合よく強引に捻じ曲げられ、そのうえ何の罪悪感も母には無いという、本当に救いようのないものです。
私は家事だけでなく、生活費も管理させられるようになっていました。
管理といっても、母と簡単な支出の予定を確認して必要な分を渡し、残りを預かるといったものです。
預かったお金は、絶対に母には渡さないという同意のうえで始めたのでした。
しかし、その同意はいとも簡単に破られました。
母のお金に対する執着心は凄まじく、
(どうしてこの人は、こんなに自分本位になれるのだろう)
と私は心底、母を軽蔑しました。
『いっちゃん、お金ちょうだい』
『どうして、お金まだあるはずでしょう』
『無いねん』
『何に遣ったの』
『わからへん』
『わからへんって、ちゃんと二人で計画したやん』
『お願いやから、お金ちょうだい』
『絶対あかん。渡さへん』
『今回だけやから。お願い』
『いつもそう言うけど、守ったことあらへんやん』
『お願い・・・』
『あかん言うたら、あかん』
『あんた、子供のくせに何偉そうに言うてんねん』
『頼んだん、誰や』
『お母ちゃんがええって言うんやから、お金ちょうだい』
『あかん』
『あんたのお金と違うやろ。親が何で頭下げて頼まなあかんの』
これから先は、逆ギレされて聞くに堪えられない言葉の暴力があり、
私はついに負けてしまいました。
何度か同じことが繰り返されるうちに、母は私にお金を預けなくなりました。
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母娘だからといっても、所詮は別の人間。
他人を変えることの難しさを痛感させられた私なのでした。
と、ここまで話して、最初のカウンセリングを終えたのでした。
帰り道は、90分間一気に話し続けたことと、泣き尽くしたことで、疲れ切っていた。その反面、心には例えようもない不思議な爽快感があった。