{1}プロローグ
最寄り駅から徒歩10分ほどの住宅地に紹介されたカウンセラーの診療所があった。
外観からすぐにはそれとはわからない一戸建ての大きな家で、私は不安を覚えながらも思い切ってチャイムを鳴らした。
「お電話で本日○○時に予約をした高野です。」
案内されて恐る恐る入った部屋は広々としたリビングで、様々な椅子とテーブルが配置されており、どこに座ればいいのか戸惑った記憶がある。
「お好きなところに座ってください。」と言われ、身近にあった大き目のソファーに座ると、その向かい側にカウンセラーの梅木先生が座った。
梅木先生の第一印象と言えば、
(落ち着いた50代の女性だな)と思ったことだ。
挨拶して、紹介者である鍼灸院の先生について話したあとカウンセリングが始まった。
「実は数年前からストレス性の胃炎を患っていて投薬治療を続けてきましたが、あまりにも良くならないので、会社で案内されている心の相談窓口に電話をして相談したところ、『身体的な症状があるのは問題だ』と言われ、近所の心療内科を受診しました。
そこでは、まず家族構成を聞かれたので、両親が離婚をしていて障害を持った弟を8歳で亡くしましたと答えました。
すると、それを聞いた医師が
『これは、根が深いな』
と呟いたのです。
私は咄嗟に
(ああ、問題がそれならカウンセリングを受けるしかないな)
と思ったのです。
案の定、その心療内科では次回の診察まで薬を飲んで様子を診るということでした。
私には薬は対処療法でしかなく、カウンセリングの必要性がなんとなくわかっていたので、お世話になっている鍼灸院の先生に相談をしたところ、梅木先生を紹介していただいたのです。」
と経緯を話した。
「そうでしたか。それではお話を聞かせてくださいますか?」
と梅木先生は言った。
私は満を持して
「はい、実は・・・母親と合いませんでして・・・」
と答えたのだった。
梅木先生は深く頷いて
「そうですか・・・親は選べませんからねぇ。」
とひとこと言った。
この瞬間、
(ああ、・・・この人は私を分かってくれる!
なぜなら、私がずっと悩み続けてきた
『子供は親を選べない』
というキーワードに即座に気付いてくれたから。)
私は、今までの出来事と私の思いのすべてを彼女に打ち明けようと、
そして私の人生をもう一度見つめ直すことを決めたのだった。