{3}第1章 弟 (2.施設での日々)
「す・・み・・ま・・せ・・ん・・・。弟の話になると・・いつも泣いてしまって・・・。」
泣きじゃくる私に梅木先生はそっとティッシュを差し出してくれた。
そのとき私は
(心ゆくまで泣いていいんですよ。)
と言われた気がした。
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日曜日ごとに施設に行くことは、私にとってどちらかと言えば楽しみでした。
弟に会えることは嬉しかったし、友達のトモコちゃんとも遊べたからでした。
トモコちゃんも私と同じで妹が入院していました。
障害のある子を持つ親同士が親しくしていたためか、いつの間にか一緒に遊んでいました。
お昼も両家族で近くのお店に食べに出かけるなど本当に楽しかったです。
私達にとって施設内はワクワクする遊び場でした。
もちろん病室では大人しくしていましたが、家族用の宿泊部屋では押入れから布団や枕を引っ張り出してのやりたい放題でした。
また時には、別棟へ探検に行って、階段、ロビー、中庭、プレイルームと忙しく動き回っていました。
ですから今でも、施設内の配置はよくおぼえています。
でもある時から、トモコちゃんに会えなくなりました。
妹さんが亡くなったと後で知りました。
それからしばらくは一人で寂しく遊んでいたように思います。
母が用事で病室に居られない時は私が変わって弟の相手をしていました。
ベッドのそばに丸イスを置いて座わり、頭を撫でたり、涎を拭いたり、食事の介助もしていました。
食事は”ポリトニック”といって食べ物をすべて液状にしたもので、スプーンで少しずつ口に流し込んで与えていました。
赤はニンジン、緑は野菜、白はご飯と、色とりどりの液体が仕切りのあるプラスチックのお皿に盛られていて、美味しいそうとは思いませんでしたが綺麗だったという印象があります。
弟が【ゴクゴク】と美味しそうに飲み、お皿が空っぽになるのを見て、子供ながらにも喜びを感じると同時に
(美味しくなさそうと思ってごめんなさい)
と反省したものでした。
弟は洟をかみ、痰を吐き出すことも自分ではできませんでした。
チューブの管を鼻や喉に差し込んで吸い取るのです。
【ガガガガ・・・】【ズズズズ・・・】と吸い取る音は、私には恐怖そのもので、苦しそうに涙を流してイヤイヤをしている弟の姿だけが今でも鮮明に浮かびます。
本当に死ぬんじゃないかと思って怖かったんです・・・。
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この頃には、私も落ち着きを取り戻していて、思い出話をすることが段々楽しくなっていた。